華流熊

~A Day in the Life of a Bear~

【本】『中国語はおもしろい』新井一二三

大事にしている中国語本の話です。

中国語著書も多数出版されている新井一二三(あらいひふみ)さんが、中国語という言語の魅力やポテンシャルについて語った本。2004年の著作ですが、恐ろしいことに、今でも古さを感じない。

新井一二三」は、林ひふみさんというジャーナリストのペンネームだそうです。講談社現代新書カバーの記載によると、東京生まれ、早稲田大学政治経済学部在学中、北京外国語学院、広州中山大学留学。卒業後、新聞記者を経て87年カナダへ、その後香港へ移住。とあります。かっこいいグローバルな経歴!

中国語人の孤独感

日中関係はかならずしもよい時ばかりではなくて、ささいな事で炎上したり、ささいではない事が起こってショック受けたりするのが日常茶飯事ですよね。

私たちが普段目にするごくごく一般的なメディアでも、中国イコール否定!の決めつけた論調だって珍しくないです。プラス面の評価は、だいたい経済面に偏る。

これって中国語学習者すなわち「中国語人」にとっては、ちょっと疎外感あるのでは?

頭ごなしに、しかも面白おかしく決めつけるような記事を見ると、「じっさい会って話してみれば、そんなことばかりじゃないのに…」と、寂し~い気持ちになっちゃいますし。

14億人といわれる中国人、そりゃ中には変な人や悪い人もいるでしょうけど、大多数はいい人たちだと思っている。

中国語のことをもっと知りたいときに

中国語をこよなく愛する著者が書いたこの本は、もっとプラス面から中国語について理解したい&しりたいと思っている人にはうってつけの一冊です。

こんな風に中国語の魅力を正面からとらえている本、希少さから言えば、日本の中国語人にとっては‟渇望の書”かも。

中国語を勉強している人はたくさんいらっしゃると思いますが、きっかけは中国への興味というより、大学の一般教養で単位充足のために選択する人が多いんじゃないでしょうか。

単位が取れてしまえば、もはや中国語を勉強する理由も失われ…。

つまり1年かけて初級レベルを勉強しても、その後は放置で忘却にまかせてる人がほとんど?

特に好きでもなかったらそれでもいいかもしれないけど、どこかで中国語を勉強する機会に恵まれ、中国語が好きだと思った人がいたとして、その人が継続的に勉強するには、もう少し興味やモチベーションが必要になります。

この本『中国語はおもしろい』はそのヒントを与えてくれるもの。

中国語の魅力をもっと知る

この本が述べていることの一つに、ことばとしての中国語そのものの魅力がある。

というか著者の中国語愛がすごいです。

著者は「中国語に恋した」と言ってますが、ふつうの語学好きのレベルをはるかにこえてると思います。例えば、北京語の発音に恋こがれる気持ちを述べた部分。

二十年たった今日なお、北京外国語学院の留学生食堂で働く地元の娘さんたちが、タララララーとなめらかなソプラノで歌った「小盤児豆腐[シャオパールドウフ]」のフレーズが、どうしても耳から離れないのである。あまりに美しすぎて。単に「小皿の豆腐」という意味なのに。

第一章 中国語とは何か

あまりに美しすぎて。どんな発音だったのでしょうね

餃子の王将の「イーガーコーテル」でそんな気持ちになったことはありませんね

さらには書き言葉の見た目だけで、

漢字の羅列からなる中国語の文章に改めて出会った時、その視覚的な美しさに圧倒され、心を打たれずにはいられなかった。

第二章 中国語の技術

とまで言っていて、もう惚れこみ方がすごいです。

中国語で教養を全球化しよう

もう一つ本書で繰り返し述べられるのは、中国語を話すこと・読むことでもたらされる世界のひろがりについて。

極東の小さな島国・日本の住人である私たちにとって、中国語を通じてもたらされるグローバルな教養がいかに価値のあるものか、ということです。

著者はこのように言ってます。

中国を知るためだけでなく、世界を知るためにも中国語を読む意味があるのだ。何しろ十三億の潜在読者を持つ出版市場なので、日本語では書かれていないことも、中国語では書かれている可能性が高い。

第二章 中国語の技術

これは私自身にも思い当たるところがありました。

なにも中国社会や中国文化に関することばかりじゃなくて、

中国や台湾の雑誌やネットで、日本に関する記事や生活の話題、書評や映画評など読んでみると、ふだん日本のメディアで見る、ほとんど画一的な立場によった書き方とは異なっていることを感じます。

これは、中国人は何でも社会主義に寄せて曲解してる~とかいうことでは全然なく、

単純に視野が広いなあ!と思うわけです。

本で著者も述べているように、世界中いたるところに中国語を話す人たちが暮らしていて、その華人と呼ばれる人たちは違った境遇にいる他の華人や祖国とも常につながりを保っています。

中国語メディアというのは、そういった人たちに向けて書かれているからでしょうか。日本メディアが日本国内の日本人に向けて書いたものとは、やはりちがうんだなと、気づけるだけでもありがたいなと思っています。

 

本書の内容をザックリ説明すると

第一章 中国語とは何か

この章では、中国本土で方言ふくむいろいろな中国語に触れた著者が、中国語の特性について書いているのと、

さらに世界中どこでも華人がいるところで話され、彼らのグローバルなつながりを支える中国語の、世渡り&情報取得ツールとしての利用価値について、著者の経験をまじえて述べられている。

中国語ということばの広がりについてイメージがわく章。

第二章 中国語の技術

この章はほとんど中国語の文法と発音の説明に割かれている。

といっても文法の参考書ではないので、著者の初学時の思い出などをエッセイ形式で書いてあり読みやすい。とくに発音について詳しい。

中国語を勉強したことがある人なら「あるある!」だし、これから勉強する人には、方言の使われ方や北京口音のもつ唯一無二の存在感など、中国語の発音をめぐるいろいろを知ることができる章。

第三章 中国語のあるくらし

この章は言語から文化や社会へ目を向けた内容。中国の音楽や料理について多く書かれている。

人生全般にわたって、中国語を通じてアジア的価値観とつながることで教養を深め、豊かに生きることができるという趣旨の章。

東洋人の教養として

きわめつきは、著者が欧米人に対して言うという、このフレーズ。

「西洋の教養人がラテン語を知らないでは済まされないように、東洋の教養人もまた中国語を知らないではすまされないのである」

この本を読めば、そういいたくなる著者の、中国語愛の深みが少しわかります。

中国語人としての誇りを感じさせてくれるという意味で、初版から20年たったいまの日本でも変わらず貴重な一冊だと思います。